何十年も前から天文学者は, 宇宙の中で目に見える物質が無秩序に分布して
いるのではないことに気づいていました.
銀河, クエーサー, 星間ガスは石鹸の泡に例えられるような模様を描いています.
巨大なボイド(銀河のない空洞領域)が壁(シート)状の構造や
繊維(フィラメント)状の構造により
囲まれていて, それらシートやフィラメントの交わるところに密度の高い超銀河団が
あります. スローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)の大きな目的の
一つは, この宇宙の大規模構造を詳細にそして遠くま
で地図に描くことです. 科学者たちはさまざまな宇宙進化の理論を唱えています.
異なった理論は異なった大規模構造を予言します.
SDSSによってどの理論が正しいのか, もしくはまったく新しい理論を考えなけれ
ばならないかが明らかになることでしょう.
銀河団
銀河は宇宙の中で一様に分布しているのではなく, むしろ群れをなしています.
これは楕円銀河についてはとくに当てはまります. このような銀河の集団がどう
いった分布をしているか, その分布が時間とともにどう進化するのかということは
宇宙論モデルの大変重要なテストになります. 例えば, 異なる宇宙論モデルでは,
赤方偏移とともに銀河団の数がどう変わるかという予想が大きく異なります.
さらに, 銀河が群れるだけでなく. 銀河団も群れをなしています!
銀河と銀河団がともにどれくらい集団化しているのかもさまざまな宇宙論モデル
のテストになります. 銀河団の質量, 分布, および進化を研究することで,
宇宙における基本的な質量分布の形成史についてきわめて重要な知見を得る
ことができます. これは宇宙論の根本的な目標の一つです.
銀河団それ自体も大変面白い性質を持っています. 銀河団はとても質量が大きく
(太陽質量の10^14 倍もある)重力が強いので, 何百万度という非常に高温なガスを
銀河団内に閉じこめておくことができます. このガスはX線を放射します.
そのX線はChandra,
ROSAT,
XMM などのスペース(大気圏外)にある
衛星から観測できます.
これらのX線衛星による観測から, 多くの銀河団が副次的な構造を持ち, 内部の力学
構造も複雑なものであることが示されました. このことは, 銀河団が最近でも
進化していることを示唆しています.
さらにこれらの観測から, X線を出すガスが銀河団中のバリオンの質量の大部分
(すべての銀河の質量の総和と同じかもしくはそれ以上)を占めていることがわか
りました. これはとても興味深い結果です. 銀河団は銀河の密集する領域として発見
されたことを思い出して下さい. ところが銀河はその銀河団という構造の総質量の
わずかな部分にしかすぎないのです. 天文学者の中には, 銀河を含まず, 重力的に
つなぎとめられた巨大なガスの固まりだけからなる銀河団が存在するかもしれ
ないと言う人さえいるのです!
銀河団の質量は非常に巨大なので, その重力は背後にある天体からの光を曲げて
しまいます. これは重力レンズとして知られる現象です. 光の曲がり具合いは銀河団
の総質量に依存するので, 重力レンズの度合いを計ることで銀河団の重さを知る
ことができます. この測定値は, X線ガスや速度分散など他のものから求めた
銀河団の質量推定値と比較することができます. これらの質量推定により,
宇宙の総質量に関する制限にもなる, 銀河団の質量光度比 (M/L)を計算
することができます. M/Lはまた, バイアス(偏り) を見積もること
にも使われます. このバイアス(偏り) が分かると, 銀河の分布と他の物質の分布の
関係がわかるのです.
銀河団の質量測定の結果, 銀河団内の物質の大部分が
暗黒物質(ダークマター)で
あることもわかりました. 目に見える銀河の質量とX線を放射するガスの質量
を足し合わせたものと, 銀河団の総質量の推定値を比較すると, 後者の方が遙かに
大きくなり, 銀河団中のほとんどの物質は銀河や高温ガスとは別の形で存在するこ
とになります! 実際宇宙の大部分は, 直接見ることはできないが, その重力から
存在が推定できる暗黒物質からできているという
ことが明らかになっています. これはここ十年の最も大きな, そして最も興味深
い発見の一つです.
超銀河団
超銀河団とは複数の銀河団の集合体です. 一般的に言って, 銀河団は泡のような物質分布
のうちのフィラメントやシートの中にあるのに対して, 超銀河団はこれらの構造の
交わるところに見つかっています. 超銀河団は知られているもののうち, 宇宙で最も
大きな構造で, 中には2億光年もの大きさのものもあります!
しかし, 超銀河団はとても希なもので, 知られているものはごくわずかです.
近くにあって最も有名なのは, グレイトウォールとペルセウス−うお座超銀河団
です. 最近, 赤方偏移が1程度のところに超銀河団があるという証拠が出て
きました. これは構造形成理論や宇宙論モデルに重要な制限を与えるものです.
さらに超銀河団のM/L比を測ったところ, この値が銀河団と超銀河団で
ほとんど変わらないことが分かってきました. このことは, 謎の物質である
暗黒物質は, 銀河団以上のスケールでは宇宙の質量に寄与していないことを
意味しています.
ボイド(超空洞)
以下の図にはSDSSの小さなスライスに含まれる主サンプルの10,853個の銀河と
より遠方の大規模構造を調べるために選ばれた「明るく赤い銀河」サンプル
の486個の銀河の分布を示しています. これはSDSSの最終目標のわずか1%に
しか過ぎないのです. 壁やシートやフィラメントやボイドが織りなす泡のような
構造がはっきりと見えています.
銀河のないボイドが占める領域の割合は宇宙のモデルによって変わります.
従って, 大規模構造の正確な地図は私たちの住んでいる宇宙がどのような
ものであるかを知る手がかりを与えてくれるのです. さらに, ボイドのそばに
ある銀河は, 銀河団にある銀河と違って星生成活動が活発であることも
知られています.
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