天文学
 宇宙地図を作る
 - なぜサーベイ?
 - 古代のサーベイ
 - 現代天文学の誕生
 - 20世紀のサーベイ
 - SDSS
 星と星雲
 銀河とクエーサー
 宇宙の大規模国「
 膨張宇宙
 現代の宇宙論
宇宙地図を作る
ここではなぜ天文学者が宇宙地図を作ろうとするのかについて簡単に紹介 し, 今日の宇宙の探査(スカイ・サーベイ)を可能にした天文学の発達 を概観します. 天文学のこうした状況をもっと詳しく学びたい人は, 近くの図書館やインターネット上の多くの興味深いサイトをご覧下さい.

なぜ宇宙をサーベイするのか?

何千年もの間, 人類は家の外の世界や, 地球の外の世界がどうなって いるのかに興味がありました. 宇宙の中で自分のいる場所を理解しよう とするとき, 夜空でただの点に見える, 星や惑星はいつも人類の好奇心 をそそってきました. 

古代人は, これらの光の点を巨大な力と結びつけて考えていました.  その力とは, 神々や彼らの制御できない自然の力でした. いくつかの文明は, 空で起こるある種の出来事に規則性があることを見つけ, それらを時間の目盛りとして使い始め, 農業や宗教行事に役立てました. その後, 星図が航海術, すなわち貿易をするための必須の道具となりました. 初期の星図の多くはおおざっぱで眼視観測から作られたものでしたが, 空のサーベイが航海用の道具に使われることは, 例えば 米国海軍天文台 の例に見られるように, 今日でも変わっていません.

今日私たちは, 宇宙を構成しているのは星や惑星だけでなく, 銀河, 銀河団, ガスの流れや塊があり, さらにそれらに加えて見えない (暗黒)物質という成分があることを知っています. これらの天体をもっと詳しく学ぶためにはまず, それらがどこで見つか るのか, どのように相互作用し, 変化し, 時間が経つに つれ進化するのかについて知らなければなりません. これらの天体の多くは, 空の広い範囲を覆っています. また一方, とても珍しく, たった一つの例を探すのに何百万個もの天体 を見なければならないようなものもあります. こういった考えから, 前世紀には多くのプロジェクトが, 今までより広い範囲にわたって, より深くそしてより波長域を広げて, 宇宙の地図を作ろうとしてきました. 予期しない新しい現象を発見したり, 特定の種類の天体に固有の性質を 明らかにしてその根底にある物理を推測するためにもっとも良い方法は 完全な偏りのないサーベイなのです.

この, スローン・デジタル・スカイ・サーベイ (SDSS)というサーベイが行われることになったのは, 銀河の集団化を非常に 大規模なスケールで, これまでになされたものよりずっと高い精度で測りたい というはっきりとした動機によるものでした. 銀河の集団化の定量的なデータがあれば, 120億年以上前のビッグバン直後から どのようにして, 物質およびエネルギーの微視的なゆらぎが成長して, 私たちが現在宇宙に見る構造を作ったのかを洞察することができるのです. SDSSは天文学の研究と教育のために新しい宇宙の地図を作ろうとしています. 地図が作られる宇宙の体積は, 以前より格段に広く, 測定はより詳細で, より精密です. SDSSはこの目標を達成するために新しい望遠鏡を用います(実際には, 望遠鏡ばか りでなくすべての要素が新しい新天文台システムが作られました). この望遠鏡は 広い視野にわたって宇宙の地図を作ることができ, システム全体として 先例のないほど大量のデータ(40テラバイト以上)を扱えるように特別に 設計されています. SDSSの生み出す地図はディジタル形式であり, どこからでも, 誰でもアクセスすることができます. この二つの特徴により, 多くの予期 しない発見がなされるでしょう. 中には専門家でない人によって見つけら れるものもきっとあるでしょう. 天文学研究のまったく新しい時代が幕を 開けようとしているのです.

古代のサーベイ


A.D.940年頃の古代中国の星図
Copyright c 1997, The British Library Board
British Library, Or.8210/S.3226

天文学は, 自然科学の中で最も古い学問です. 古代から人類は昼と夜, 月, 太陽, 星への好奇心を抱き, それは次第 に発展して, ついに天体は規則的に動いているように見えることを 知ったのです. 夜には, 同じような道筋を通っている1000個以上の目に見える星が, 常に同じグループ(星座と呼ばれる)をなして, 空の定点(天の北極) を回っているように見えました. 最も古い空のサーベイは, 明るい星と惑星およびその衛星の位置や運動の記録 です. これらの記録のもっとも古いものは, 5,000年以上前までさかのぼり, エジプト, 中国, 中央アメリカ, メソポタミアなどで発見されています. これらのサーベイでは, データを石版や神殿の壁に刻んだり, 特別な天文学的出来事を指し示すように石をならべたストーンヘンジ のような建造物を作ったりして記録を残しました. 今日知られている最古の星のカタログは, およそ紀元前350年に中国で シー・シェン(石申)によって作られたもので, 800個の星を含んでいます.

宇宙の地図作りと宇宙の理解は, B.C.600年からA.D. 400年の1000年間 に大きく進歩しました. この間ギリシャの哲学者と天文学者は, 宇宙 の作用に関する現実的な理論を発展させ始めました. 詳細な観測に基づくこの理論で, 太陽, 月, 惑星の動きも予想できた のです.
まず幾何学的なアイデアがB.C.6世紀に導入され, 約100年後, 有名な数学者ピタゴラスが惑星の動きを説明するために, 同心天球の 概念を導入しました. 当時のギリシャ天文学の知識は, アリストテレス によってB.C.4世紀にまとめられました. その後すぐに太陽を中心とする 宇宙論が(受け入れられませんでしたが)展開され, アリスタルコスにより, 地球に対する太陽と月の相対的な大きさが決められました.

200年後のB.C.2世紀に天文学はさらに発展しました. ヒッパルコスが三角法を改良し, 観測される天体間の角度から天文学的 距離を決めるためにそれを利用しました. 彼は, 天文学には長期間にわたる正確で系統的な観測が必要であると認識し ていました. それで彼は, 昔の観測をたくさん用いて, 自分の観測結果と 比較したのです. 彼の観測の多く, とくに惑星の観測は, 将来の天文学者のためになされていました. ヒッパルコスの周転円の体系は, プトレマイオスによって, プトレマイオス体系と呼ばれるシステムに洗練されてゆきました. これは太陽系の幾何学的な表現であり, かなりの精度で惑星の運動を予想できる ものでした. この他に彼の行った偉業のひとつに, 視差法を用いた月までの正確な 距離の測定があります. 彼の13冊の本, アルマゲスト(Almagest)は, 古代の天文の知識の集大成であり, たくさんの翻訳がなされて, この後14世紀 もの間絶大な権威となったのです.

現代天文学の誕生


チコ・ブラーエのカタログに基づいて, 16世紀半ばに 
ヨハン・バイアーが描いた星図「ウラノメトリア」
中のペルセウス座の図
チコ・ブラーエのカタログに基づいて,
16世紀半ばにヨハン・バイアーが描いた星図
「ウラノメトリア」中のペルセウス座の図

科学としての天文学はその後1000年以上にわたって, 特にヨーロッパでは, 休眠状態となりました. しかしその間イスラム教徒とヒンズー教徒の天文学者は かなりの前進を遂げました. ギリシャ人の革新的な考えは, アラビア語の翻訳 書を経由してしかヨーロッパにたどり着かなかったのです! ヨーロッパ天文学の復活の基盤はコペルニクスにより作られました. 彼が1543年に出版した「De revolutionibus orbium coelestium (天体の回転について)」は, 地球が地軸の周りを回転しており, そしてさら に太陽のまわりを他の惑星とともに回転していると提唱したのです. ヨーロッパで天文台というものが確立されたのはこの頃であり, デンマークの島に建てられたウラニボルク天文台はそのひとつです. 有名な天文学者チコ・ブラーエとヨハネス・ケプラーはこの天文台を使って, その当時の最も正確で完全な天体観測を続けました.

ほぼ同時代に, 近代科学の祖と呼ばれるガリレオ・ガリレイが, 望遠鏡を使って 最初の天体観測を行いました. 以来望遠鏡は常に天文学に革命を起こし, 人々の目を宇宙の不思議へと向けさせているのです. 17世紀から18世紀にかけて, アイザック・ニュートンにより運動の法則と万有 引力の法則が導かれた結果, 天文学と物理学は一体のものとなりました. この二つの法則が, 純粋に記述的なものでしかなかったケプラーの法則 に物理学的かつ力学的な基盤を与え, 当時の天文学の進歩のほとんど すべての基礎となったのです.

20世紀のサーベイ

19世紀後半には, 写真術と分光学によって天文学に革命がもたらされ ました. 写真フィルムや写真乾板によって, はじめて空の半永久的な記録が 残せるようになったのです. これらの媒体は画像を保存できるばかりでなく, 長い時間露光することによって, より暗い天体, より遠い天体を見ることができるようになりました. 1930年代までには, 天文学者はぼうっと見える「星雲」が, 実際には 何千億個もの星からなる別の銀河であることを知っていました. これらの天体を研究するためには, まずそれらを見つけなければな りません. そういうわけで, 写真観測による系統的な空のサーベイ が行われるようになりました.


パロマーシュミット望遠鏡およびUK 48インチシュミット望遠鏡の写真乾板
をディジタル化して作った全天の地図.
(アメリカ海軍天文台による)
パロマーシュミット望遠鏡およびUK 48インチ
シュミット望遠鏡の写真乾板をディジタル化
して作った全天の地図.
(アメリカ海軍天文台による)

これらのサーベイを促進させたのはシュミット望遠鏡の発明でした. この望遠鏡は空の広い領域を一度に写真に撮れるような光学設計になってい ます. このタイプの最初のものである口径18インチの望遠鏡は1936年に, パロマー天文台で, 超新星を探すために使われ始めました. この光学設計でとても良い結果が得られたので, より口径の大きな48 インチのものが作られました. この望遠鏡は, 当時パロマーに建設中 だった新しい口径200インチ(5 メートル)の望遠鏡の観測対象 となる天体を見つけることが目的でした. 48インチのシュミット望遠鏡を使って, 天文学者は1949年に, はじめて, 完全な偏りのない空のサーベイを行う努力を始めました. その成果である国立地理学会-パロマー天文台スカイ・サーベイ(POSS-I)は, 可視光の2つのフィルタ(波長帯=色)で撮影された北天の全ての 領域のデータを提供しています. 南天の地図を描くために別のシュミット望遠鏡で同様なサーベイが 行われました. これらのサーベイの完成には10年以上を要したのですが, それによって天文学の基本となるデータが得られました. 1980年代になると大口径望遠鏡が次々に建設され始め, 新しい サーベイの必要性が明らかになってきました. 望遠鏡は以前と同じ48インチ シュミット望遠鏡ですが, 今度は改良された写真乳剤を使って 全天の写真がもう一度撮られました. 北天のサーベイである 第二次 パロマー天文台スカイ・サーベイ(POSS-II)は, 今度は三色のフィルタを使って行われました.

コンピューターとディジタル画像処理技術の出現により, これらの サーベイの利用価値は高まりました. サーベイで撮影された写真乾板を 高速測定機でスキャンしディジタル画像が作られ, それはインターネットを通じて 誰でも利用することができるようになっています. 今日では誰でも, これらのサーベイの画像や, 他のさまざまなサーベイ よる画像をNASAの SkyViewといった ツールを使ってダウンロードできます. さらに, 可視光以外の波長帯での天文観測技術 (電波:FIRST, X線:RASS, 近赤外線:2MASS, など) の発展により, これらの新しい波長の窓を通しても空のサーベイが行われ, それまでには見られなかった驚くべき宇宙像があらわになってきました.


スローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)

 
 
  SDSS の2.5m望遠鏡

今日の先端的な電子的光検出器(一般向けのディジタルカメラに使われる CCDチップなど)は, 写真乾板よりもずっと高い感度を有しています. 高速のコンピュータや巨大なデータ記憶システムのおかげで, 空のディジタル画像をたくさんのフィルタで撮り, その莫大な量のデータを 処理し保存することができるようになりました. こうした技術進歩を背景にスローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS) が構想されました. このサーベイは, 全天の4分の1の詳細な地図を描き, 1億個以上の天体の位置と明るさを決めようというものです. それに加えて近距離の銀河百万個の距離を測ることで, 今日までに調べら れよりも100倍大きな体積にわたって, 宇宙の3次元地図が得られます. またSDSSは100,000個のクェーサーまでの距離も調べます. クェーサーは 知られている最も遠方の天体であり, 目に見える宇宙の果てまでの物質 の分布がどうなっているのか, これまでにない手がかりが得られる でしょう. SDSSで観測する宇宙の領域は, パラシュートの形をしたロゴで表されて います. 私たちはパラシュートのひもの交わるところ, すなわちロゴの 中心にいます. 背景の楕円は, SDSSが最も関心を持っている銀河の 形を連想させるものです.

SDSSのフィルタ(色)
名前波長
u'紫外3540Å
g'青/緑4760Å
r'6280Å
i'深赤7690Å
z'近赤外9250Å
撮像によって作られる空の地図では, 右の表に示した5つのフィルタで, ほぼ同時に天体の正確な光の強度を測ります. 北銀極領域のうちSDSSは約10000平方度, すなわち πステラジアンを観測しま す(ロゴのパラシュート部分). 南銀極方向では, SDSSは3本のストリップを繰り返し 撮影します. そうすることによって, より暗い天体を見ることができ, 時間変化し たり, 一時的にしか見えないような種類の天体を探すこともできます.

サーベイを完成させるために, SDSS共同研究グループは ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台に専用の2.5メートル望遠鏡を 建設しました. この望遠鏡は視野が広く(3°), その広い視野を2048x2048画素のCCD素子を 30個並べて撮影します. さらに, その視野にある640天体 のスペクトルを一度に撮れる, ファイバー分光器2台が装着されています.