セクションIII 赤方偏移の決定
セクション1では、スカイサーバーを使って12個の銀河についての赤方偏移を調べました。このセクションでは、自分で赤方偏移を計算する方法について学びます。
スペクトルを解析することで、天文学者は驚くほど多くのことを知ることができます。このセクションではそのうちのたったひとつに焦点をあわせます。スペクトルから銀河の赤方偏移を測定し、それを理解し、活用する方法を学びます。
赤方偏移の測定
赤方偏移や青方偏移の測定には四つのステップが必要になります:
1) 対象となる天体(例えば銀河)の、スペクトル線を示しているスペクトルを見つける 2) 線のパターンから、それぞれの線がどの原子、イオン、または分子から作られたものかを見極める 3) どれかひとつの線が、地球上の研究室で測定された、期待される波長からどれだけずれているかを測る 4) 観測されたずれから式を用いて赤方偏移と天体の速度を計算する
例を挙げて説明しましょう。すべてのスペクトル線は、電子が原子の内側か外側に移動するときに作られます。水素は宇宙で最も多い元素で、したがって銀河の中にもよく見られます。水素を含む領域のスペクトルは「バルマー系列」と呼ばれるスペクトル線のパターンを示します。バルマー系列は水素の放電管を使って、教室で簡単に再現することができます。放電管でガスを光らせるエネルギー源は銀河と同じではありませんが、スペクトル−ラインの形−は同じです。教室で自分で測定したり、表でバルマー系列を調べることで、水素の静止スペクトル線の波長を知ることができます(波長はオングストローム、100兆分の1メートルで記述されています)。
水素の静止波長−バルマー系列 |
|
名前 |
色 |
波長(オングストローム) |
|
アルファ(a) |
赤 |
6562.8 |
|
ベータ(b) |
青緑 |
4861.3 |
|
ガンマ(g) |
紫 |
4340.5 |
|
デルタ(d) |
深紫 |
4101.7 |
|
課題 12: SkyServerツールの「スペクトル入手」ツールを使って、ID番号1970729122988102番の天体のスペクトルを調べてください。スペクトルはプレート番号401/51788、ファイバー番号161に見つかるはずです。下にスペクトルを示します。このスペクトルは銀河から来たのもので、他の多くのスペクトルと同じように、強いスペクトル線を示しています。水素の線は既に同定してあります。最も強い山はa線(Haという印がついています)で、二番目に高い山はb線です。g線とd線は山ではなく谷になっています。 |
|
画像を元の大きさで見るにはクリックしてください |
|
|
バルマー系列の波長をスペクトルのX軸から読み取って、この表の内容を確認してください。
|
水素の波長 −銀河ID1970729122988102のバルマー系列 |
|
名前 |
色 |
波長(オングストローム) |
|
アルファ(a) |
赤 |
7219.1 |
|
ベータ(b) |
青緑 |
5347.4 |
|
ガンマ(g) |
紫 |
4774.6 |
|
デルタ(d) |
深紫 |
4511.9 |
|
赤方偏移はzという文字で表されます。zの定義は
1 + z = l observed / l
rest.
銀河1970729122988102のバルマー系列のガンマ線を例にとってみると、
1 + z = 4774.6 / 4340.5 = 1.1 なので、
z = 0.1 となります。
もし観測された波長が静止波長よりも短いならば、zは負になります。これは青方偏移を求めたことになり、その銀河が私たちに近づいていることを意味します。しかし、空にあるほぼすべての銀河のスペクトルは赤方偏移を示すことがわかっています。
アルファ線、ベータ線、ガンマ線を選んだ場合でもz=0.1という結果を得ます。測った赤方偏移はスペクトル線の種類によらないのです。異なる線を使ったときに、あまりにも異なる赤方偏移の値を得たなら(もちろん測定の誤差の範囲内で)、おそらく線のうち少なくともひとつを正しく同定できていないのでしょう。
赤方偏移の解釈
赤方偏移の代わりに、キロメートル毎秒(km/sec)の単位を使って銀河が私たちから遠ざかっている速度として表したいときもあります。
赤方偏移zをkm/secで測った速度vに変換するためには、式は次のようになります。
v = c z,
cは光速度で、= 300,000 km/secです。
したがって、この例では銀河1970729122988102は私たちから30,000 km/secという速度で遠ざかっているように見えます。この値はSkyServerデータベースで見られる銀河の赤方偏移としては典型的な値です。
この式はz = v / cという風に書き直すことができるので、zの解釈の仕方がわかります。つまり、zは銀河が私たちから遠ざかる速度を光の速さに対して測ったものなのです。
このように考えるとわかりやすいですが、このzの定義は正確なものではありません。それは次の二つの理由によります。第一に、v = c zという式はzが1に比べて小さいときだけ正しい式なのです(この場合のように0.1ならば大丈夫です)。宇宙の速度限界である光速度に近づくような速い速度の場合、アインシュタインの特殊相対性理論によるともっと複雑な式が必要になります。 第二に、わたしたちが「銀河の運動」という場合それは静止した空間を銀河が運動していくことを意味するわけですが、実際には空間そのものが膨張しているのです。つまり、銀河は空間を移動しているわけではなく、ただ膨張する空間によって運ばれているだけなのです(これについてのより詳しいことはセクションIVを見てください)。この場合、観測された赤方偏移がドップラー効果による赤方偏移とそっくりであるにもかかわらず、銀河の赤方偏移は速度として解釈してはいけないのです。
むしろ、赤方偏移は光がその銀河を発したときの宇宙の大きさを教えてくれます。宇宙の直径は100億光年程度なので、光が遠くの銀河から私たちに届くまで数十億年もかかります。今我々が観測している銀河1970729122988102までの距離が、光が銀河を発した時(z = 0.1の場合、この時刻は今から約10億年前になります)にd(z)であったとしましょう。この10億年の間に宇宙空間は膨張したので、現在私たちの銀河系と銀河1970729122988102の間の距離はd(0)になりました。両者の関係は
1 + z = d(0) / d(z)
と表されます。この式から次のようなことがわかります。赤方偏移0.1に対応する時刻では、宇宙のすべての銀河は約10%近くにあったのです。測定した値がz = 0.2であったなら、現在よりも銀河が約20%近くにあった時刻と対応しているのです。他のzの値でも同様です。
|
課題 13: すべての銀河が、銀河1970729122988102のように強い水素バルマー系列を示すスペクトルを持っているわけではありません。銀河にみられるより複雑なスペクトル線のパターンを理解する助けにするために、天文学者はいくつかの代表的なスペクトルの例を使います。銀河のスペクトル例には、強い山を示すもの、山はないが、深い谷を示すもの、そして中くらいの高さの山と深さの谷を両方示すもの、などがあります。
天文学者はテンプレートスペクトルと呼ばれるこれらの代表例を赤方偏移がわからない銀河のスペクトルと合わせ、テンプレートを動かして赤方偏移を求めます。SDSSでは9個のテンプレートスペクトルを使っています。
下にあるアプリケーションを使うと、SDSSのテンプレートを使って10個の銀河の赤方偏移を求めることができます。「スペクトル」と表示されているドロップダウンメニューを使って、見たいスペクトルを選んでください。「テンプレート」と表示されているドロップダウンメニューを使って、比べたいテンプレートを選んでください。それぞれのスペクトルを9個のテンプレートと比べて、一番似ているものを選んでください。そうしたら、ページの下にある左、右、大きく進める(>>)、大きく戻す(<<)のボタンを使って、テンプレートを左右に動かしてください。スペクトルの上には、今試している赤方偏移の値が表示されています。
テンプレートの山と谷がスペクトルの山と谷と重なったら、そのスペクトルの赤方偏移が求められたことになります。スペクトル全体を完全に合わせようとはしないでください。主な山と谷を合わせるだけで構いません。スペクトルを最も合わせることができる赤方偏移を見つけたら、ドロップダウンメニューからスペクトル番号を書き、見つけた赤方偏移を書いてください。
アプリケーションを起動するにはここをクリックしてください |
サンプル銀河の赤方偏移
赤方偏移がどんなもので、どのように測定するのかがわかったので、前のセクションのサンプル銀河に戻る準備ができました。
|
大きなサイズで画像を見るにはここを
元の大きさ(非常に大きいです)で画像を見るにはここをクリックしてください |
|
課題 14: 前のセクションで相対距離を求めた銀河が記されているノートを開いてください。選んだ天体のうち、10個はスペクトルをSDSSスペクトルデータベースから手に入れられるはずです。実は、それが前の課題で赤方偏移を求めた10個の銀河なのです。下の表は課題13のスペクトル番号が、前のセクションのどの銀河に対応しているのかを示しています。
|
スペクトル番号 |
銀河のID番号 |
プレート番号 |
ファイバー番号 |
|
447 |
2255048446836831 |
284/51943 |
447 |
|
453 |
2255031254843527 |
284/51943 |
453 |
|
455 |
2255031254843512 |
284/51943 |
455 |
|
522 |
2255048446902406 |
284/51943 |
522 |
|
523 |
2255031254909306 |
284/51943 |
523 |
|
525 |
2255031254909137 |
284/51943 |
525 |
|
526 |
2255031254843544 |
284/51943 |
526 |
|
527 |
2255031254909183 |
284/51943 |
527 |
|
530 |
2255031254909042 |
284/51943 |
530 |
|
580 |
2255031254974636 |
284/51943 |
580 |
スペクトル入手ツールを使って、SDSSのソフトが計算したこれらの銀河の赤方偏移を調べてください。課題13で求めた値はSDSSのソフトの値とどれくらい近かったですか?
スペクトル入手ツールを起動するには
ここをクリック
|
|
課題 15:
課題14の銀河の平均赤方偏移はどのくらいですか? SkyServerデータベースの平均赤方偏移はどのくらいですか? 求めるために、数10個の銀河をデータベースからランダムに取り出してください。そして、赤方偏移の平均と値のばらつき幅を求めてください。クエーサーと分類されている天体について、同じことを繰り返しましょう。平均の赤方偏移と、値のばらつき幅はどのくらいですか?
いくつかのスペクトルを同時に見る一番簡単な方法は、
プレート入手ツールを使うことです。 |
|